彼女と一緒に彼女の家の墓参りに行く話。
一緒にお墓参りに行って欲しいの、と彼女に言われた。
少し肌寒くなってきた、秋の日のことだった。
俺は深い意味を推測する事もなく頷いた。
俺の家の墓は最近ではめっきり珍しくなったようで、下には砂利ではなく土がある。
墓石の左右に埋められた山茶花が毎年花を咲かせては四方八方に伸びてくれて、おまけに地面に埋めた球根は増え続けるし、雑草は伸び放題できちんと整備しなければ大変なことになるような墓だ。
そんなではないとは思ったが、一応軍手その他諸々を持っていこうかと聞くと、彼女は不思議そうな顔をする事もなく首を振った。
はて、俺は彼女に俺の家の墓の話をしただろうか。
彼女は、できれば私服じゃないほうがいいわ、と言った。
礼服か、と問うと、また首を振る。
白、とぽつりと呟いて、しかしすぐに言い直す。
赤、臙脂がいいわ。
彼女が言っているのは、恐らくいつかに来ていたあの服だろうと憶測して、俺は首を縦に振る。
墓参りは次の日。
俺はタンスの中から目当ての服を探しておいて、机の上に放置して寝た。
次の日起きて服を着て、適当な食事をして身なりを整えて家を出る。
彼女に指定された場所に着くと、彼女はもう待っていた。
ごめん、待ったかな。
俺が言うと、彼女は首を振った。
長い黒髪が左右に揺れる。
いいえ。
そして彼女は言う。
行きましょう。
俺が来たのは墓地のある山の麓らしく俺と彼女はそこから歩いて山を登った。
彼女の手には真っ白な菊、俺は彼女の代わりに少しだけの水を持って、ひたすら山道を辿っていた。
登っても登っても周囲は墓地ばかりだ。
時々家族連れの人とすれ違って、その度に俺は彼女をまじまじと見て通り過ぎる人の目に少しだけ嫌悪を滲ませた。
しかしそれも仕方のないことなのかも知れない。
彼女が着ているのは白いワンピースだ。
しかし、何処かの洗剤のコマーシャルに出るような、光の下で青白く光るような白ではない。
少し黄ばんだような、いわゆるベージュっぽい白だ。
細かいレースやフリルは付いているが、その白以外の色は一切使っていない。
確かに、喪服の黒ならばともかく、白を着てくるのはあまりここには似つかわしくないかもしれない。
彼女はそれらの視線を気にする事もなく、白く細い足でしっかりと地面を踏みしめて歩いていく。
それからもしばらく歩いて、俺はいい加減に疲れてきた。
ずっと墓場続きだった周囲の様子も、少し前に雑木林の中に入って今は木漏れ日の少しも入ってこないような森の中だ。
足元にはっきりとした道が続いているから迷っているわけではないだろうが、日の光も入ってこない森というのは気が滅入る。
耐えかねて、いつ着くんだ、と問うと、彼女は振り返って笑む。
着いたわ。
え、と俺が言うと、彼女は横に連なる木が一本だけ欠けた方へ歩いていった。
数歩離れて歩いて俺は、その方向へと急ぐ。
途端に目に差す陽光。
俺は目の前の景色に、感嘆した。
今は結構な高地にいるらしく、目的の墓場は目下にあった。
随分な広さのあるその場所の中心に、彼女が言うらしい墓石がある。
ただ、他の人の墓らしきものは何も見えなかった。
あるのは、彼女の家の墓石と、一面の花――彼岸花。
一面に、みっしりと、雑草が生える隙すらないほど、一斉に真っ赤な彼岸花が咲いていた。
こっち、と彼女の声がして、俺はようやく我に返って彼女が降りていった階段を降りる。
その階段は地面ではなく、しっかりとした石造りだった。
下まで降りてみると、飛び石のように彼岸花の合間を石が置かれている。
滑らかに進んでいく彼女を後を追い、俺は赤い道を歩いていった。
血のように赤い彼岸花。
普段街中で見かけるとそう思うことが多いのだが、不思議とこれだけ大量に見るとそんな気は微塵もしない。
ただ、量と鮮やかさに目が眩むばかりだ。
血と言うよりは、沖縄の紅型染めの赤のような、そんなもっと強烈なもの。
上からみた中心の、彼女の墓場について、俺は手の桶から花立てに水を注ぎ、彼女が袋から出した菊を生ける。
線香を出して手を合わせる。
同時に目を閉じて、先に目を開いたのは俺のほうだった。
ふと、墓の横に不思議なものを見つけた。
形は周囲に咲き乱れてるものとなんら変わりはない。
しかし、その花の色は、視界に残像を作る赤ではなく、少し黄ばんだ白だった。
どうかした、と手を合わせ終えたらしい彼女が聞いてきて、俺は首を振った。
何となくだったが、振り返ったその場所に同じ花を見つけた気がした。
――彼女だ。
その白い彼岸花は、彼女と同じ服を着ている。
彼女が立ち上がったので、俺も釣られて立った。
彼女は少し俯き加減で、話したい事があるの、と言った。
何、と聞き返すその頭から、異様な彼岸花が抜けない。
結婚して欲しいの、と彼女が言う。
俺は少しだけ驚いて、それから頷いた。
返事の変わりに彼女を引き寄せる。
眩い白ではない彼女を。
あの彼岸花は赤ではなかった。
燃えるような紅ではなかった。
ただ白に近いのに、何か異様な、そんな色。
血を連想させる赤よりも、ずっとずっと、禍々しい。
奥に混沌を従えているのを、無理矢理隠したような、そんな白――彼女。
顔を近付ける。
目を閉じた彼女を見て、口付ける瞬間に俺は思った。
――きっと数年先に、この場所にはまた赤い花が一つ増えるのだろう。
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歪んだ白。
黄色い彼岸花とかも存在するんだそうで。
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